※ホームに咲いた小さなバラ※〜⭐︎
2025.11.28
幡ヶ谷へ向かう朝
ホームの風はまだ少し冷たく
わたしは静かに電車を待っていた
ふと隣に
杖をついたおばあちゃんが立ち止まる
そのまなざしに
どこか深い時間の気配が宿っていた
お手伝いが必要かしら――
そう思った次の瞬間
おばあちゃんはふわりと笑い
やわらかい声で言った
「まあ、かわいいわねぇ
そのお花は、何の花かしら?」
驚いてスカートの裾をそっと広げる
黒地に咲く赤い刺繍のバラ
「バラの花ですよ。」と答えると
「まあ、素敵ねぇ。」
そう言い残して
にこにこと嬉しそうに
風のように歩き去っていった
何が起きたのだろう
助けなければと思っていたわたしが
いつのまにか
言霊のギフトを受け取っていた
ただ微笑みかけられただけで
胸の奥の花がひらく
ささやかな朝の奇跡
わたしのハートは
今日一日を照らす
光のバラになった


