旅の余韻〜⭐︎
2026.01.19
静かな洞に
水は言葉を持たずに流れ
わたしの内側の
古い揺れを
そっと洗っていった
崩れた街の中で
八十三年、灯を消さなかった宿は
「よく来ましたね」と
声なき声で迎えてくれた
昼の割烹で
五十一年分の時を
箸と笑顔でほどき
過去は懐かしさに変わり
未来は、何も要求しなかった
母の用意した席
兄の声
義弟夫婦の穏やかな笑い
会席の一皿一皿に
血と時間と信頼が盛られていた
失くしたと思ったものは
足元で
ちゃんと待っていて
人の手によって
戻ってきた
満ちる、というのは
何かを得ることではなく
すでに在るものを
確かめること
今も胸に残る
あたたかな静けさ
それが
わたしの旅の
すべてだった


